「歯科とホリスティック医学」
「私」という存在の最も身近な一部でありながら、痛み始めると自然治癒力がなかなか及ばない場所。
私たち自身の知性や感情・言葉・微笑み・怒り、そして愛を表現するアイデンティティーの大切な一要素。
食べ物が安全であるかを瞬時に知覚し味覚を助け、咀嚼により消化機能の一端を担う……歯は何と大きな役割を果たしていることでしょう。
健康な時は何気なく食事や会話をして、普通に社会生活を営めるのは当然のことのように思い、歯の存在すら忘れていることも多いのではないでしょうか。
しかし一旦、その機能が損なわれた時、QOL(生活の質)に重大な影響をもたらす場合があります。
多くの患者さんは一刻も早く歯の痛みから解放されたい、普通に食事がしたいと願って恐る恐る歯科を受診しますが、そんな時、歯は単に食べ物を咀嚼するだけの器官としての認識しかないのかもしれません。
逆に過去のさまざまな経験から、常に歯の大切さを全身の健康にとって大切な要素として考えている人もいるでしょう。
このような歯と口腔の機能の捉え方の違いにより、ホリスティック医学的介入がどこまで可能なのか、的確に判断することが求められます。
はじめの段階としては、まず虫歯の痛みから連想される治療への恐怖感を軽減するための心身医学的なアプローチが必要とされます。
私の医院では患者さんとの支持的治療関係の構築とホスピタリティーの一環としてホリスティック医学的な手法も取り入れ、リラクゼーション音楽やアロマテラピー、バッチフラワーレメディなどを応用しています。
そして痛みが軽快した後、治療の継続を希望される患者さんに対しては、次の段階でもう一歩踏み込んだアプローチが可能になります。
それは歯と歯周組織の全身的な見地からの大切さについての認識を深めていただくことです。
現在日本で成人のうち80%以上の方に歯周病が認められるというデータがあるにもかかわらず、自覚症状を伴わないことが多いため、かなり進行していてもほとんど気づいていないケースも多く、このような方に対しても治療の過程で少しずつ歯周病と全身との関わりについて資料をお渡しして関心を深めていただきます。
歯周病の病原因子としては細菌の関与が最も有力ですが、感染症としての認識もほとんどされていないのが現状です。
歯周病との関連が注目されているのは、糖尿病、動脈硬化、心疾患、誤嚥性肺炎などの生活習慣病や低体重児出産などが挙げられますが、最新の研究において歯周病予防は生活習慣病対策の観点からもますます重要な因子となっています。
さらに噛み合わせも歯周組織・呼吸・姿勢など全身に大きな影響を及ぼす可能性があり、患者さんの状態を診ながら少しずつその理解を深めていただきます。
天然の歯は咀嚼という消化器としての機能のみならず、その一本ずつに神経と脈管を備え「いのち」を宿しています。
また非常に敏感な圧力センサーである歯根膜を介して支えられ、噛む力を制御し咀嚼しても安全かどうかを瞬時に判断する感覚器官としての重要な役割も担っています。
このように虫歯・歯周病・噛み合わせの不調を全身との関連から捉えた場合、その治療と予防にはライフスタイルも含めた自己管理が最も重要な要素になってきます。
この気づきこそが、患者さんにホリスティックな健康観に目覚めていただく大切なきっかけとなります。
ヒトの消化管粘膜は口腔から咽頭・食道・胃・小腸・大腸へと続き、その表面積がテニスコート1.5面分にも相当する広大な拡がりをもっています。
口腔は鏡を使って自分で観察できる唯一の貴重な消化管の一部でもあります。
東洋医学では身体の一部分が全身に影響し、全身が部分に表れることを経験的に体系化してきましたが、最近の免疫学的研究では、このような観点からも生活習慣病と歯周病との関連性が解明されつつあるのは大変興味深く、歯と口腔を生活習慣や全身的な視点に立って見ることはとても重要なことだと思います。
そして治療がひと段落し、その後も定期的に検診に来院していただけるようになってからが、いよいよ本格的に患者さんとのホリスティック医学的な関わりが可能となります。
歯科におけるこのような患者さんとの交流は長期にわたり継続する場合も多く、全身の健康に対する歯と口腔のいっそう深い関係性に目覚め、洞察を進めていく過程でもあります。
成長・加齢・季節やストレスなどライフスタイルの変化による歯と口腔の状態を、胃や腸内環境も含めて患者さんと共に観察し、食生活・呼吸・睡眠・ブラッシング法・噛み癖などの毎日の些細な習慣の積み重ねが、口腔系から全身の健康を維持し自己治癒力を高めること、さらには精神活動や地球環境とのフラクタルな相関性についても考えていく……。
歯科におけるホリスティック医学的な関わりは、健康における歯と口腔の大切さを医療スタッフも患者さんと一緒になって分かち合い、生涯継続して学んでいく場であると言えましょう。
(共著:ホリスティック医学より)








